この広い地球には、旅好きしか知らない、ならぬ、音好きしか知らないローカルな場所がある。そこからは、その都市や街の有り様と現在地が独特なビートとともに見えてくる。

音好きたちの仕事、生活、ライフスタイルに根ざす地元スポットから、地球のリアルないまと歩き方を探っていこう。今回は、カナダ・ケベック州の都市、モントリオールへ。

「北米のパリ」と呼ばれるフレンチカナディアンの都市・モントリオールのオルタナティブシーンを支えるClay and Friends。2013年に、Mike(ボーカル)を中心に、Adel(ビートボックス)、Clément(ギター)、Pascal(ベース)、Émile(キーボード)で結成された5人組バンドだ。
仏語と英語が公用語のモントリオールっ子らしく、ほとんどの楽曲からはその両方が聴こえてくる。ヒップホップ、ソウル、ファンク、レゲエ、ポップ、フォーク、なんでもあり、都会的で遊び心あふれるサウンド。今回は、ボーカルのMikeに、フレンチカナディアンのポップなシティスポットを聞きながら、モントリオールの歩き方を覗こう。

Clay and Friends
Clay and Friendsのボーカル、Mike。
取材に応じてくれたClay and Friendsのボーカル、Mike。

ケベック州では最大の都市モントリオール。生まれもここ?

(同市南西部にある)生まれ育ったのは、ベルダンという地区。いまでもそこでよくレコーディングをしている。僕らのアルバム『La Musica Popular De Verdun(2016)』はベルダンについて歌ったもの。

バンドメンバー5人ともモントリオール出身?

みーんなそう。僕とビートボックス担当のAdelは、両親世代からの移民だけどね。

移民がとても多い都市ですよね。バンドメンバーとの出会いを教えて。

クレイジーな話だよ(笑)?

お願いします。

僕がミュージシャンとして初めておこなったライブに、観客としてAdelがいたんだ。もちろん、初対面。彼は200人から300人くらいいる観客をかき分け最前列にきて、僕にいきなりこういったんだ。「ステージ上でビートボックスをさせてくれ」って。そして、勝手にステージに上がってきてマイクを奪って、ビートボックスをはじめやがった。これが、観客に大盛況で。気づいたら次の日には、バンドClay and Friendsができあがっていたんだ。

映画みたいな出会い方(笑)。Mike自身も路上ライブをしながら音楽やラップのスキルを身につけたというから、ストリートな二人だからこその意気投合だったのかもね。地元モントリオールで、地元の人とバンドを結成し、活動中。

いまの時代ってテクノロジーがあるから、どこにいても世界各国に音楽を発信することができる。アメリカやヨーロッパにだってツアーに行きやすい。ニューヨークなんて飛べば一瞬(1時間半のフライト)。地元モントリオールでの暮らしは、やっぱり心地良いんだよね。

『Brooklyn We Busk Hard』

ブルックリンで路上ライブを行なっていた頃の様子がMVに収められている。

地元のどんなところが好き?

まず、英語と仏語が公用語として使われているところ。それに影響されて、僕らの音楽も半分は英語で、もう半分は仏語。モントリオールの人と会話するときは、二つの言語を混ぜて話すことが当たり前なんだ。これってモントリオールならではのこと。

言葉の感覚は生活のいろんなところに、そして制作に影響しそう。どんな音楽生活を送っている?

僕らの練習のやり方は少し変わっているかも。ツアーがとにかく多いんだ。たぶん100から130くらいのライブを毎年こなしている。パンデミック期間でさえもテレビやラジオ出演でメンバーと一緒になることは多かったから、ライブの数をこなして練習している、みたいな感じ。

本番が練習の場でもあると。忙しい日々でも、曲作りする時間はあるの?

ステージ上で楽曲が完成することもある。時々、ライブで観客に「頭に思い浮かんだ言葉を教えて」と聞いてみるんだ。あるとき即座に「OMG(オーマイガー)」と返ってきて、それを元に即興でラップをしたら、けっこう盛りあがって。せっかくだから曲にしようぜってなったりする。

そうしてできた曲が『OMG』。おもしろい誕生秘話だね。レコーディングはどんな感じでしてる?

家にスタジオがあるから、自宅で制作することが多い。インスタグラムでもよく、うちのリビングで練習している様子をアップしているよ。ゲストを招いて一緒に音楽を作ることもあって、1日の終わりに演奏してビデオにおさめたりする。

自宅での曲作りの様子。

家やスタジオにある音楽機材はどこで買ってる?

みて、Audio-Technicaのヘッドホン。愛用中。モントリオールにあるお気に入りの機材屋といえば、Moog Audioかな。スタジオにあるほとんどの機材は、そこで調達してる。この店、スタッフのムードがいいんだ。機材についての質問をしたら、全力で考えてアドバイスをくれる。他の店やオンラインで買えるとしても、そこに行く。お店を選ぶときは、そこで働いている人の人間性を重視するかな。

誰から買うかって、大事ですよね。レコードを集めるのも好き? モントリオールでお気に入りのレコードショップがあれば知りたい。

レコード大好き。山ほど持ってる。モントリオールにあるお薦めのレコード屋は「La Rama」と「180g」。オンラインで買うことも多いけれど、この二軒は足を運ぶよ。最近買ったお気に入りのレコードはDon Cherry(米ジャズミュージシャン)のアルバム『Om Shanti Om』。瞑想にぴったりの音楽って感じ。

レコードを手に持つMike
お気に入りのアルバム『Om Shanti Om』を見せてくれたMike。

「180g」は店内の壁にアートが飾ってあってカラフルで、Clay and Friendsのポップな雰囲気と似ているね。シティポップなお薦めご飯スポット、なんて、あったりする?

友だちがやっているアジア多国籍料理店「La Belle Tonki」。僕の好物はスープなんだ、もうスープ中毒なんじゃないかなっていうくらい(笑)。ここのスープは最高! 肉もジューシー。タイに行ったことがあるんだけれど、この店は本場の味にかなり近い。頻繁に新しいメニューも用意していて、いつも違う料理を試すことができるところも、飽きなくていい。ワインと料理をペアリングしてくれることもあるんだよ。

デザートも欲しい。

「Dalla Rose」というアイスクリーム屋、やばいよ? ここのブルーベリーアイスクリームが僕の定番。

アイスクリームも色とりどり。見てるだけで楽しい。Mikeをはじめ、メンバーみんなポップなファッションですが、そんな服たちはどこで買う?

古着屋で服を買うことが多くて「Kapara Vintage」という古着屋がお薦め。古着屋って、その日になにが見つかるかわからないところがいいよね。あと、モントリオールのローカルアーティストが手がけている「Pony」というブランドもいい感じ。

ローカルブランド、いいですね〜。

あとはね、街沿いを流れるサンローラン川でサーフィンするのが好き。街にいながら、サーフィンできるって、なんだかおもしろいよね。海でのサーフィンとはまた違う体験なんだよ。

車に積まれたサーフボード

川サーフィン。夏のスポーツが好き?

昔はスキーなどのウィンタースポーツもよくやっていたけれど、もうやらなくなった。どちらかというと、トロピカルなバイブスの方が好きみたい。冬になって寒くなると、空港に行ってどこかに旅立ちたくなる(笑)

いまは絶好の季節だ。地元っ子が集まったClay and Friends、大事な瞬間や思い出が色濃く残っている街のスポットはどこ?

これまでで一番大規模なライブをした「Club Soda」。そこでの初めてのライブでは1000人くらいだった観客が、いまでは3000人のソールドアウト。

Club Sodaの前で記念撮影するMike。
Club Sodaの前で記念撮影するMike。
Club Sodaでのライブの様子。
Club Sodaでのライブの様子。
オーディエンスと記念ショット。
オーディエンスと記念ショット。

すごい! 人の波で、サーフィン。

僕らの地元、この街なしでは、僕らは成立していない。音楽に没頭するための場をあたえてくれた。世界中のどこにいようと、モントリオールは僕らのアイデンティティなんだ。

Clay and Friends/クレイ・アンド・フレンズ

Clay and Friends/クレイ・アンド・フレンズ

2013年、カナダ・モントリオールで結成された5人組バンド。メンバーは、ボーカル担当のMike Clay (マイク・クレイ)を中心に、ビートボックス担当のAdel Kazi(アデル・カジ)、ギター担当のClément Langlois-Légaré(クレメント・ラングロアーレガーレ)、ベース担当のPascal Boisseau(パスカル・ボイソー)、キーボード担当のÉmile Désilets(エミール・デジーレ)で構成。これまで『Bouge ton thang』、『Gainsbourg』、『Que Onda』、『Going Up The Coast』などの代表曲をリリースしている。ヒップホップ、ソウル、ファンク、レゲエ、ポップ、フォークなど一つの音楽ジャンルにとらわれずに、遊び心溢れるポップな楽曲を制作している。

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Eyecatch Image via Clay and Friends
Words:Ayano Mori(HEAPS)