どんなに好きな音楽でも、なんだか長く聴いていられない…。それは “聴き疲れ” という現象かもしれません。スピーカーや音源の組み合わせ、音質の傾向が影響するこの問題について、オーディオライターの炭山アキラさんが詳しく解説します。
“聴き疲れ”の原因を探る
皆さんの中に、販売店で聴いて気に入ったスピーカーを筆頭とするコンポーネントが、実際に自宅へ据え付けて聴いていると、大好きな音楽なのに途中で何だか耳に障るような気がしてきて、長時間聴き続けていられなくなった、という人はおられませんか。それは俗に「聴き疲れする」という現象と考えられます。
確かに長時間聴き続けられないのは問題ですが、しかしそれは買ってきた装置が悪い、と一概に言い切れないところがあります。まず機器とソフトとの相性、そして再生音とリスナーとの相性が問題になるからです。
音楽ソフトの多くは、再生される装置をある程度想定し、それらで最も音楽が映えるように作り込んでいます。例えば、廉価なイヤホンやミニコンポなどで聴かれることが多いと想定したソフトは、本当の最低音まで伸ばしてしまうと音として再生されないのみならず、振動板がバタついて中域以上にも悪影響を及ぼし、最悪の場合システムの破損にもつながりかねませんから、低音はやや高めの周波数以下を落とし、その分だけ再生できる低音を膨らませていることが多いものです。
また、それほど大きな音で聴かれないと想定したソフトは、それでも迫力のある音を再現するために、低音と高音を少し持ち上げてあったり、小さな音でも隅々まで聴こえやすくするために、強めのリミッター(音のピークを抑え、一定の強弱の幅へ収め込む装置)をかけてあったりもします。
そういう音楽ソフトを、本質的にワイドレンジで大音量に堪える装置を使い、その実力を発揮する音量で鳴らしたら、小さな装置のために一所懸命練り上げた音の加工が一気に副作用として押し寄せ、とても耳障りで聴いていられないといったことになりかねません。そこまで極端ではなくとも、やはり「何だか長く聴くと少し疲れるな」と感じるようなことは、そう珍しくないと考えてよいでしょう。

ちなみに、ワイドレンジかつ大音量で聴きたい装置にふさわしい音作りのソフトというものもあります。それらを小型小音量の装置で奏でると、前述したように超低音で機器が危険に晒されたりもしますし、そこまでいかなくともメリハリなどの加工があまりなされていませんから、何だか茫洋とつかみどころのない再生音になってしまいがちのものです。
それに、たとえ大きな器を持つ機器でも、機材によって音作りは千差万別ですから、強めのメリハリ調に躾けられたソフトを上手くいなし、手懐けて鳴らして見せる製品も少なくありません。こういう機器の細かな相性というか適性は、ネット通販やオークションなどでは得ることの難しい情報ですから、詳しい店員さんがいる販売店を訪れるのが最も有効な情報を得やすいのではないかと考えます。
聴き疲れしないオーディオの特徴と選び方
それでは、聴き疲れしないオーディオというのはどういう音質的な特徴を持つものでしょうか。これがまた一筋縄ではいきません。例えば、製作中のどこかで若干の耳障りさが紛れ込んだ音源があったとしましょう。悲しいことですが、特に往年の音源にはそう珍しいことではありません。
そういうソフトを耳に優しく再生するなら、一つにはナローレンジで情報量が少なく、しかし帯域バランスが良くそれを感じさせない装置を選べば、いささか消極的な手段ではありますが、耳当たり良く長時間の聴取を楽しむことができるでしょう。
もう一つは、ギリギリまで再生系の歪みや凹凸を排除した、高品位なシステムで再生することです。こういう装置では、並みのものとは比べ物にならないくらい、音源そのものに入った歪みが耳へ届きにくくなります。また、本質的に情報量の多いシステムは、音量を下げても音楽の姿が縮こまったりショボくれたりする傾向が少なく、相対的に歪みが少なく感じられる、ということもあります。
さらに、あなた自身がどれくらい聴き疲れに対する耐性をお持ちかも、機器選びの大きな要素となります。わが家へ遊びに来たある友人は、私の装置から出る音に聴き疲れを訴えました。一方、私自身は割合と耐性の強い方で、友人が疲れてしまった装置をガンガン鳴らして、大音量の音楽を長時間楽しんでいます。

つまり、聴き疲れしにくいシステムを選ぶには、まずご自分の愛聴なさっているソフトがどういう傾向のものか、そしてご自分がどれくらい聴き疲れに対して耐性をお持ちか、これらが重要なパラメーターになってくるのでしょうね。あなたにとって最良の音楽を奏でるシステムと巡り合われることを祈ります。
Words:Akira Sumiyama