2025年11月2・3日の2日間にわたり、東京都中央区の築地本願寺で『Analog Market』が開催された。レコードを中心に骨董・アンティークや古着、アート、ワークショップやオーガニックフードなど、つくり手の心がこもった「アナログなもの」を体験できる蚤の市で、来場者は3万人を超えた。活気に満ちたイベントの様子をお届けする。
境内に広がるマーケットエリアには、古物や雑貨、ハンドメイド作品、クラフトチョコレートや盆栽など、バラエティ豊かな店舗やクリエイターたちが参加した。
1705年創業の香老舗 松栄堂によるお香の移動販売車〈ことことワゴン〉には、お香をはじめ香立や香炉などのさまざまなアイテムが並んでいた。トラックの近くには良い香りが漂い、それに惹かれて立ち止まる人の姿も見られた。
写真家・沼田学さんによる〈築地写真〉ブースにて販売されていたのは、かつての魚河岸で働く人たちの姿をおさめた写真集『築地魚河岸ブルース 特装版』。魚や水産物を競る人の姿を写すメディアが多い中、沼田さんは築地に通い、ターレを運転して荷物を運ぶ姿を中心に市場内を行き交う人たちの姿を日々撮影し続けたという。当時の築地市場の様子をいまに伝える貴重なアーカイブだ。
〈のとのいえ〉では、震災や豪雨の影響で解体を余儀なくされた石川県・能登の家屋からレスキューされた陶器や輪島塗の漆器、レコードなどが展示販売されていた。思い出の詰まった古道具は次の手に引き継がれ、再び大切に扱われることだろう。
アナログインスタントカメラでお馴染みの〈instax™ チェキ〉のブースではカメラを貸し出しており、家族や友人のポートレート、マーケットの商品や本願寺の風景など、撮影を楽しむ来場者の姿がたくさん見られた。その他にも株式会社雑談による〈ポッドキャスト3分レコーディング〉、QuizKnockが制作した〈レコードクイズラリー〉などの来場者が無料で楽しめるコンテンツも盛況を見せ、笑顔と弾む声が飛び交っていた。
レコードショップエリアにはVDS(Vinyl Delivery Service)によるキュレーションのもと日本全国、そしてパリから集まった店舗が隣り合い、テーブルには端から端までレコードが並んだ。来場者が多い時間帯では箱ごとに行列ができるほどの賑わいが印象的だった。
直感的に手に取ったものを購入する、お店の人と会話を楽しむ、マーケット内を何周もしてたくさん悩むなど、楽しみ方は十人十色。2日間を通して、たくさんの来場者がモノや人との出会いを満喫したようだ。
キッチンカーエリアではテーブルや椅子も用意されていたが、日中はすぐ横の芝生の上で腰を下ろしてゆったりとくつろぐ人の姿も多く、のびやかな空気が漂っていた。
おにぎり動画が話題のモデル・小竹ののかさんがコラボレーションした〈omusubi teshima〉は11月2日限定の出店。オープンの10時から賑わいを見せていた。具がたくさん詰まった “握らない” おにぎりは頬張ると口の中ではらりとほどけ、お米と海苔の香りが鼻を抜ける。正午からは小竹さんもフードトラックに乗り込み、陽が暮れるまで82歳の看板娘・弘子さんとともに心を込めておむすびを結ぶ姿が見られた。
その隣のフードトラックで提供されていたのは、〈魚屋の森さん〉が手がける究極の魚骨ラーメン「五味五法」。焼鯛出汁にトッピングはあさりと海苔、そして小ネギと糸唐辛子が散らされていた。あっさりなのにコクがある。渾身の一杯を求めた来場者の行列がマーケットの開始時刻前からできあがり、両日ともにお昼過ぎには完売していた。
本堂に向かって左側にある、第二伝道会館へ移動。オーディオテクニカ製品の展示、ワークショップ、そして〈Deep Listening〉が開催されていた。館内に入ると目の前にはターンテーブル『Hotaru』のブースが登場。薄闇に包まれた室内で一際輝いていた。
その奥の〈カートリッジ聴き比べ〉コーナーでは、それぞれ違うカートリッジが取り付けられた『AT-LP8X』が3台並んでおり、参加者は自分で選んだレコードを載せて、それぞれの違いを聴き比べる。連日待機列が絶えないほどの盛況で、「こんなに違うんだ!」という驚きの声が時折聞こえた。
また、横にある花の間ではオーディオ総合季刊誌〈MJ無線と実験〉による試聴会とジャンク市が開かれており、ジャズやシティポップなどさまざまな音楽が絶え間なく流れていた。
ワークショップは境内と第二伝道会館の2階で開催。館内プログラムは日ごとに異なる体験が用意されていた。“ねんドル”としても知られる岡田ひとみさんによる〈ミニチュアねんど教室〉には、69名の親子らが参加。岡田さんのデモンストレーションを見ながら、自分で好きな色に着色したねんどをこねて、手のひらにちょこんと収まるサイズの小さなヘッドホンを完成させた。
そして蓮華殿で行われたのは、日本初上陸のオーディオシステムOswalds Mill Audioを使用した〈Deep Listening〉。オーディエンスは床に座り、セレクターたちがテーマごとに吟味した音楽にゆったりと身を委ねる音楽体験を味わう企画だ。
最初のプログラムは〈音を聴くということ、アナログであるということ by Audio-Technica x Oswalds Mill Audio〉。セレクターとして登壇したのは、Oswalds Mill Audioの創業者でありCEOのジョナサン・ワイスさんとオーディオテクニカのアグニ・アッキタム。「目を閉じて聴くと良いですよ。(It’s better to listen with your eyes closed.)」ワイスさんはそう言って、1枚目のレコードを再生した。
流れてきたのは、モンゴル人アーティストEnji のセカンドアルバム『Ulaan』より「Zuud」。モンゴル語での優しい語りと静かな伴奏から始まり、やがて歌唱がはじまると演奏も盛り上がっていく。まるで目の前でパフォーマンスを聴いているかのような、立体的な音の広がりを感じられた。会場の聴衆が静かに耳を傾けつつも、次第に高揚感に包まれていくのが伝わってきた。
2日間を通して9つの公演が行われたが、宇多田ヒカルや安全地帯、坂本龍一の楽曲が流れる回があれば、エスキモーの歌やバイノーラル録音の音源、インド音楽、芸能山城組など、セレクターとテーマごとに再生される音楽はかなり異なり、最終プログラムの〈Animistic Music | Gagaku Electronics by 石田 多朗〉では石田さんによるピアノ演奏とともに、笙(しょう)、篳篥(ひちりき)、楽琵琶、龍笛の演奏が披露された。
dublab.jpとのスペシャルプログラム『TSUKIJI RADIO』では、築地を象徴する運搬車「ターレ」がDJブースとして登場。境内の中心では常に音楽が流れており、13時から閉場間際までDJによるライブパフォーマンスが披露された。どの時間もターレの周りには常に人が集まり、時には踊り出す人も。
最後まで熱気に包まれながら、Analog Marketは幕を下ろした。
Photos:Kiara Iizuka
Words & Edit:May Mochizuki