「レコードは音質がいい」「レコードの音には温かみがある」とはよく耳にしますが、いまの令和の時代において発売されたレコード、その音質はいかに?ここではクラシックからジャズ、フュージョン、ロックやJ-POPなど、ジャンルや年代を超えて日々さまざまな音楽と向き合うオーディオ評論家の小原由夫さんが最近手に入れたレコードの中から特に<音がいいにもほどがある!>と感じた一枚をご紹介いただきます。

福岡県の古民家で収録された

今回採り上げるシーネ・エイ(Sinne Eeg)は、1977年デンマーク生まれのジャズシンガーで、実は日本に所縁がある。かつて交換留学生として日本に滞在していた時期があるというのだ。後述するが、どおりで日本語の歌を流暢に歌う。

本作は福岡県宮若市の音楽スタジオ「想帰庵」で収録された。アルバムタイトルの『SHIKIORI』はこのスタジオの名称で、オーナー兼ベーシストの松永誠剛の祖母が住んでいた築150年以上の古民家を改装してスタジオとした。シーネ・エイは日本ツアーの途中とかでなく、このスタジオで録音をしたいという一心から来日し、収録に臨んだという。

共演者のピアニスト、ヤコブ・クリストファーセン(Jacob Christoffersen)もデンマーク生まれの59歳。30年以上のキャリアを持ち、多くの女性ヴォーカリストと共演を果たしてきた。

アルバムの録音は2024年9月16、17日。編集とマスタリングは、スウェーデン/ストックホルムにて行なわれた。収録曲は10曲(CDは12曲)。ちなみに同CDは、私も所属している一般社団法人「ミュージック・ペンクラブ・ジャパン」の2025年度/第38回ミュージック・ペンクラブ音楽賞のオーディオ録音作品部門賞を獲得している。

レコードにはシーネ・エイ作曲が3曲、 ヤコブ・クリストファーセン作曲が2曲の他 、スタンダード・ナンバーやポップスが5曲収録されている。

シーネ・エイ作曲が3曲、 ヤコブ・クリストファーセン作曲が2曲の他 、スタンダード・ナンバーやポップスが5曲収録

A-2の「Soba Flower (Japanese Ver.)」は、ピアノに合わせてフェンダーローズを重ねたメロディーを背にし、シーネが正しいイントネーションの日本語でしっとりと歌う。その情緒的なムードは日本の野山の原風景をリスナーに思い起こさせる。

白眉がB-1の「Maria」だ。指揮者で作曲家のレナード・バーンスタイン(Leonard Bernstein)がミュージカル映画『ウエスト・サイド物語』用に作った楽曲で、ナット・キング・コールの(Nat King Cole)歌唱でも広く知られる。シーネは情熱的に歌い上げる感じで、声量の豊かさとブレスの長さに圧倒される。そこに寄り添い、歌を引き立てるようなヤコブのピアノも素晴らしい。

なお、アルバムジャケットに使われた写真は、その古民家スタジオの一室で撮られたものであろう。裸足でリラックスしている二人の姿が、本盤のオーガニックなサウンドを彷彿とさせていて実に興味深い。

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Words:Yoshio Obara

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