誰かが鍵盤に触れ、また別の誰かが耳を澄ます。演奏する人も、聴く人も、その場に居合わせた全員がひとつの「音」を分け合う——そんな時間が、ある建物のなかに流れていた。SKWATが2021年に立ち上げた音のプロジェクト〈SKWAT HERTZ〉。
その中心にあった試み〈SKWAT HERTZ ORCHESTRA〉がいま、『SKWAT HERTZ ORCHESTRA ARCHIVE』という新たな形でAnalog Marketに登場する。
でも、ちょっと待った。そもそも、SKWATとは何者なのか? SKWAT HERTZとは? SKWAT HERTZ ORCHESTRAとは?開催前に、この企画がどこから来たのかを、少しだけ辿ってみたい。
SKWATとは——社会の隙間を占拠し、価値を転換する
まず、〈SKWAT(スクワット)〉について。このプロジェクトは、設計事務所〈DAIKEI MILLS〉とアートブック専門のディストリビューター〈twelvebooks〉の対話から誕生した。その名は、空き家や空きビルを占拠する「SQUAT(スクワット)」に由来する。
適切に使われず持て余された “社会の隙間(VOID)” を、期間限定で合法的に占拠し、そこに能動的なアクションを起こして価値を転換させていく——それは東京・神宮前、かつてクリーニング店だった2階建てのプレハブ一軒家に始まった。2019年のことだった。
そこではtwelvebooksと連携し、ダメージなどで不良となってしまった彼らの在庫を1,000円で販売するアートブックストア「Thousandbooks」として、2020年2月まで営業した。
そこからいくつかの単発的な “スクワット” を生み出したのち、その活動をアーカイブする場所として2020年5月にSKWAT/twelvebooksを南青山にオープン。
そこから約4年後、西亀有の高架下に〈SKAC(SKWAT KAMEARI ART CENTRE)〉として拠点を移し、現在に至る。
SKWATが行っている代表的なプロジェクトのひとつに〈Material Matters(マテリアルマターズ)〉がある。建築家やデザイナー、アーティストの仕事場には、プロジェクトの参考に集めた珍しい素材サンプルが数多く眠っている。だが、そのほとんどは仕事が終わると捨てられてしまう。
Material Mattersは、DAIKEI MILLSが自らの素材ライブラリーを一般に開放し、素材の新たな役割を試行するとともに、制作プロセスそのものを共有する取り組みである。素材の価値を捉え直しながら、新たなかたちで活かしていくというSKWATの根っこが、ここにはそのまま表れている。
SKWAT HERTZとは——「音」で建物を占拠し、紐解く
「音(伝える)」を軸としたプロジェクト〈SKWAT HERTZ(スクワット・ヘルツ)〉が初めて展開されたのは、2021年の京都だった。その舞台となったのは四条烏丸の商業施設、COCON KARASUMA。隈研吾によるリノベーションを経た近代建築である。
SKWATはこの建物のパブリックスペースに、ストリートピアノを持ち込んだ。入場無料で開かれたこの空間では、誰もが自由に鍵盤へ触れられた。ちなみに、この「HERTZ」というのは「Hz(音の周波数)」と英単語の「hear」を掛け合わせた造語である。
この来場者によって奏でられる偶発的な演奏は〈SKWAT HERTZ ORCHESTRA(スクワット・ヘルツ・オーケストラ)〉と名付けられた。生み出された音は録音され、SKWATがFM KYOTO(α-STATION)とともに制作したラジオ番組『SKWAT HERTZ』を通して毎週火曜の深夜に放送された。
SKWAT HERTZ ORCHESTRA——高架下で溶け合う、誰もが奏者の合奏
そして2026年6月、SKWAT HERTZ ORCHESTRAは現在の拠点であるSKAC(SKWAT KAMEARI ART CENTRE)内のアートスペース〈PARK〉にて再構築された。キュレーションはVDSが担当。高架下というこの場所ならではの特性が、このオーケストラに新たな一章を書き加えた。
そこにあるのは2台のピアノと吸音材を設えた椅子のみで、ステージは無い。さらには頭上を走る電車のガタンゴトンという音が定期的に鳴り響く。この演奏する者と聴く者の双方が「音」を共有できるインタラクティブな空間で、ふらりと立ち寄った来場者が試しに一音弾いてみたり、親子で童謡を弾きながら歌ったり、ゲリラ的に現れるアーティストがパフォーマンスを披露したり。その一方で、それを全く見ない人もいるし、通り過ぎる人もいる。
そんな空間で生まれた音は常時録音され、SKAC館内のBGMとしても展開された。来訪者による自由な演奏から、アーティストによるライブ演奏まで、多種多様な「音」によって場の可能性を来場者と共に探っていく実験的なプロジェクトであった。
音は国籍、人種、年齢、そして社会状況さえも超え、常に豊かさをもたらしてくれる。どんな不遇な状況でも、みんな音楽や声に勇気付けられ、前進していくキッカケをもらっているはずだ。こういったシンプルで根源的なモノこそ、現代社会、そしてSKACと来場者との強い絆を作る上では不可欠だろう。
そして、SKWAT HERTZ ORCHESTRA ARCHIVEへ
そして今回、舞台は〈PARK〉から同施設内の〈ARCADE〉へと移る。過去に来場者やアーティストによって奏でられ、録音され、蓄積されてきた音はVDSによるキュレーションと音源編集のもと、新たな音へと姿を変える。
それを、オーディオテクニカのプロ用ヘッドホン、密閉型『ATH-M50x』と開放型『ATH-R50x』の2種類で聴き比べる。それが今回の『SKWAT HERTZ ORCHESTRA ARCHIVE』だ。
ライブ演奏から「聴く」行為へと重心を移し、受け渡す。こうして、時間と場所を越え、人々を結びつける音のあり方を体験する展覧会が、今回のAnalog Marketで開催されるのである。
Analog Market
produced by Audio-Technica, VDS, SKWAT
会期:2026年9月2日(水)~10月4日(日)
※定休日:毎週月曜・火曜(9月21日(月)・22日(火)は営業)
開場時間:11:00–19:00
会場:SKAC(SKWAT KAMEARI ART CENTRE)
東京都葛飾区西亀有3-26-4 / JR常磐線「亀有」駅より徒歩12分
入場料:入場無料 ※一部のライブなどは有料
主催:株式会社オーディオテクニカ
企画・制作:Audio-Technica、VDS(Vinyl Delivery Service)、SKWAT
※最新情報は特設サイトおよびイベント公式インスタグラムにてご確認下さい。
Edit:Tom Tanaka
Words:May Mochizuki