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「K-POPアイドル(韓国アイドル)」の存在がワールドワイドに躍進しつづける一方で、大きすぎる問題も抱えている。 それが、ゴミ問題。 重複購入によって無駄になったCDの数は1億5,000枚を越えたと報じられた。 今回は、うなぎのぼりに人気を更新し続けるK-POPだからこそ抱え得るこの問題について、そして同時にK-POPだからこそできることがあるとされる可能性について、考えてみたい。

はじまりは韓国ドラマの“セット”、歌謡曲人気から

昨年「コーチェラ2023」のヘッドライナーに、大人気K-POPアイドルグループBLACKPINKが大抜擢された。 これはK-POP史上初。 彼女たちの世界的知名度だけでなく、K-POPそのもののワールドワイドな人気を名実ともに違わないと証明した。

もともと韓国の歌謡曲は、1990年代から2000年にかけての韓国ドラマの大流行によってその “セット的” なものとしてヒットしたのがはじまりだ(そういえば母が見ていたっけ…。 ちょうどその頃、韓国では元祖ボーイズグループ「H.O.T」がデビューした)。 余談だが、8、9年ほど前だろうか、中国の文化に詳しいライターからこんな話を聞いた。 中国では当時にはすでに韓国への “アイドル留学” が増えており、留学から戻った研修生たちが「オッパ」「オンニ」*と呼び合うようになっていたらしい。 四半世紀でだいぶ遠くまできたな、と思う。 いまではK-POPこそが、さまざまな韓流文化の入口になっている。

*オッパ・オンニ:それぞれ親しい年上の男性、女性に使う呼称。

止まらないK-POPアイドル人気の裏側で

止まらないK-POPアイドル人気の裏側で

今年もK-POP業界の勢いは衰え知らず。 7月には、アジア諸国の多国籍メンバーで構成され、長らくK-POPを代表するアイドルグループTWICEが、ミュージックビデオ再生数において世界のガールズグループで最多を記録。 1億回以上再生されたミュージックビデオの数は24本にのぼる。

さて、近年の凄まじいK-POP人気は、韓国の音楽業界のみならず経済効果をあげているわけだが、その下支えとなっているのがCDやアルバム、デジタル音楽やグッズの購買によるもの。 そしてこれはK-POPに後ろ暗い問題も生んでいる。 「ゴミ問題」だ。

特にCDやアルバムは、フォトカードやコンサート応募券を同封することによってファンに重複購買を促す仕組みになっている。 日本でも同様のことが問題視され続けているが、K-POPのグローバルの購買層と経済規模で考えればさらに桁違いの問題になってくる。

プラスチック量、55.8トンから「801.5」トンに

そもそも、アジアにおいては一人当たりのプラスチック廃棄量は1位の韓国(ワールドワイドにみても1位アメリカ、2位イギリスに続き3位)。 そして、K-POPアルバムに使用されるプラスチックの量は過去6年間で14倍に増加したと韓国の環境省が今年報告(これはちょうど2016年以降、TWICEやBTSによって本格的にK-POP人気に火がついた頃)。 その量、55.8トンから801.5トンへの超増加だ。 販売全体によるプラスチック使用量は、実際にはこの数字を越えるという見方もある。

BTS、BLACKPINKなど、改善のアクションも

ワールドワイドにファンを抱えるK-POPアイドルだからこそ、環境問題を無視できない。 特に欧米でのK-POP人気があがるということは、欧米の先進的な社会課題への意識的な層をファンに抱えることでもあるため、急速なアクションが必須であるとの見方も強い。

BTS、BLACKPINKなど、改善のアクションも

BTSやBLACKPINKなど海外にファン層を多く抱えるグループは、特に2021年以降、環境活動へも積極的な姿勢をみせている。 HYBEなどの大手事務所も昨年から対策としてアーティストのデジタルアルバムをよりサステナブルな方法で提供することを発表している。 例えば、今後は物理的なCDを含まず、QRコードをスキャンすることで楽曲やフォトコンテンツにアクセスできるようにする等。 また、アルバムの外装や内容物にはリサイクル可能な素材や紙、生分解性素材*を使用していくとも。 これを追うようにより多くの事務所が環境汚染に対応する姿勢をみせており、大手芸能プロダクションが生分解性素材にシフトしようとしている。

*生分解性素材:一定の条件下で菌やカビなどの微生物が自然に働くことで、無機物やより単純な物質へと成分が分解される素材のこと

ワールドワイドのK-POPファンは強い

ワールドワイドのK-POPファンは強い

と、ここまで問題への対応についての話をしたが、世界規模の人気を誇るK-POPだからこそ面白い活動もみえている。 K-POPのファン層は結束の強さでも知られるが、これが環境問題への活動にも活かされている。 たとえば、BTSの「Butter」のミュージックビデオ撮影地として有名なビーチ、孟芳(メンバン)海岸には毎年約50万人の観光客が訪れる。 このビーチから10km離れた場所に建設中の巨大な石炭火力発電所に対して、K-POPファンが2021年からキャンペーン「Save the Butter Beach」を立ち上げ、この建設に反対。 これに止まらず、環境問題への啓蒙活動を行うようになっている。

そして、環境活動推進グループ「Kpop4Planet」。 さまざまなK-POPアイドルグループのファンが発起したグループで、韓国のエンターテインメント業界に対してアルバム制作による環境汚染について圧力をかけている。 ファンによって成立する同グループの最大の強みは、世界各地のファンが賛同し、参加しているという点だ。 ソーシャルメディアを活用し、世界中のK-POPファンと気候変動の問題について考え、行動を促しており、韓国以外での活動実績もあげているようだ。 おもな実績としては、インドネシアの石炭火力発電所でつくられたアルミニウムの使用を止めさせることに成功。 「No K-Pop on a Dead Planet(死んだ地球にK-POPは存在しえない)」というキャンペーンも展開し、エコフレンドリーなアルバムオプションの導入を企業に求め、また大量購入後に廃棄されたアルバムの回収もおこなっている。

K-POPだからこそできること

K-POPだからこそできること

ファンと経済活動がグローバル規模だからこそ問題が大きいが、その絶大な影響力ゆえにできることがあるとの考えも多い。 ソウル大学大学院環境学研学科のユン・ソンジン教授はこう述べている。

「ファン、アーティスト、K-POP事務所が協力していくことで、韓国内の都市部だけでなく、アルバムの売上金の一部で自然を必要とする発展途上国に森をつくる、太陽光発電施設を建設することもできるのではないでしょうか」。

韓国ではアーティストの政治的発言はタブーだが、環境問題への言及は近年、ちらほら増えている。 BLACKPINKは2021年に国連のSDGsのアンバサダーにも任命され、同グループのメンバーは比較的積極的に発言している。

現在のビジネス構造が生む環境負荷の危機感を、そのままインパクトをもって方向性をシフトすれば、それ相応の可能性があるのではないか——そんな期待も高まりつつあるK-POP業界だ。

Words: HEAPS