現在、秋田県仙北市の地域おこし協力隊として従事し、田沢湖近くで暮らすアーティストのstarRo(溝口真矢)氏による連載第七回。 あまねくストレスの種と考えられそうないくつかの普遍的なテーマをお題に、starRo氏の現在の暮らしやバックグラウンド、追憶を交えながら「ウェルネス」の本質を考える、担当編集者との往復書簡を展開する。 癒しと平穏をもたらしてくれるのは徹頭徹尾、(音などが作り出す場を含む)環境と実のあるリアルな言葉であるという仮説のもとで。 第七回目のテーマは「リラックス」とその方法について。

Theme.07:師走で溜まった疲労。 それを解消する方法は?

Question:
秋がどこかに置いていかれたかのように、気づけばあっという間に師走……。 直近でかなり立て込んでいたせいか、とてつもなく疲れてしまっているようで、集中力が限りなく低い上に考えもまとまりにくく、寝て起きてもどうも怠さが残り、頭痛も続いてしまっています。

ただ、この連載を担当させてもらっているおかげで、最近は依存していたBluetoothイヤフォンを必要な時だけに留めたり、生理的なリズムというか、気分(=心身)に従って暮らすことを心がけるようになりましたし、できるだけ朝日と共に起きて緑に水やりをすることや、夜は好みのレコードを流して瞑想や無の境地に近い感覚に至ることが心地よく、生活に不可欠な要素だったことを再認識したりはしていました。
そういった状態になると、不思議とはかどったのが読書だったりしましたね。

一旦リラックス(≒忘却と回復)ができれば、その認識を呼び戻すことができるような気がするのですが、疲労のせいでまた依存に逆戻りし、ストレスとさらなる疲労の蓄積を引き起こし、楽しかった読書すらやめてしまい、音楽の聴き方もまた雑になってしまいそうです。 こんな時、どんな方法を取れば良いと思いますか? また同時に、リラックスの本質って何だろうという疑問もわいてきたので、それにもお答え頂けるとありがたいです。

Answer from starRo:
“リラックスのために好きなことをすることは大事なことだと思いますが、本当にリラックスを追求するのであれば、その本質は「何もしない」ことだと思います”

もし私たちが完全にリラックスしているとしたら、もはや時間や空間で世界を捉えることもしなくなり、時間と空間で捉える世界ではあり得ないことが起きたり、あるいは何も捉えない無の状態になるはずです。 身近な例だと、深い眠りに入っている時です。

眠りに入ることで、私たちはまず目からの入力を遮断し普段の空間の捉え方から解き放たれます。 そして次第に時間の感覚からも解き放たれていきます。 こうして身体と意識の通常の関係性からも離れ、身体に意図的に力を入れることがなくなります。 顔に落書きされても、ベッドの端っこギリギリに追いやられてすごい格好で寝ていても、その状態に反応することなく、力学的にその時にバランスが取れている体勢に完全に委ねている状態で寝続けることができるわけです。

そういった状態が、僕にとっての完全にリラックスした状態です。

休みの日のゲームや読書、飲み会もストレスの元かも……

逆にいうと、私たちは、仕事とか学業といった日頃から意図的に力を入れている環境から休むだけで、解放されてリラックスしているという認識になってしまったりするのですが、その休みの日にゲームをしたり読書したり、気を使わなくていい友達と飲みに行ったりして、何かしらの活動をすることでも、力を入れたり、脳がプロセスしたりして、ストレスの負荷の違いはあるにせよ、仕事や学業をしているのと同様、「作業」であることには変わりはないわけです

そしてそのすべての作業によって体の癖や思い癖や固定観念が自分に染み付いていき、自分で型にガチガチにはまっていってしまう。 ガチガチに型にはまった状態では、その型で対応できないような状態に細かくストレスを溜めていく。 そういうストレスが溜まりに溜まると、疲弊したり、体調や心の調子を崩していくという状況をわたしたちの多くが経験しているはずです。

例えそれが作業の一種だとしても、休日に本を読んだり、好きなことをやったりすることはそれはそれで大事なことだと思います。

ただ、本当にリラックスを追求するのであれば、その本質は「何もしない」ことだと思います。 「何もしない」ことで、自分に染みついた型から解放し、その型の外にある領域を含めた現実の全体をフラットに感じ取り、狭めてしまっている自分の本来のポテンシャルを自然に引き出すことができます。 イノベーションはそういう状態から生まれるものだし、アートもまさにそうものだと思います

starRo氏によるウェルネスに関する過去の連載記事を読み返す

#01 目的/目標
#02 自立/自律
#03 欲望
#04 生活リズム
#05 眠れない時
#06 アンビエント

starRo

溝口真矢

starRo(溝口真矢)

神奈川県横浜市出身のアーティストでありDJ。 大学卒業後、テック企業に勤め、31歳の時にLAに移住。 SoundCloud黎明期に音楽制作活動を本格化させ、アップしたトラックが注目される。 2013年、Ta-Ku(ター・クー)やLAKIM(ラキム)、Tom Misch(トム・ミッシュ)などがリリースしたこともあるレーベル、Soulectionに加入し、2016年にはThe Silver Lake Chorus(ザ・シルバー・レイク・コーラス)の楽曲「Heavy Star Movin’」のリミックスを手掛け、グラミー賞 最優秀リミックス・レコーディング部門にノミネートされる。 コロナ禍を機に日本に戻り、しばらくは東京やその近郊で暮らしていたが、仙北市にある田沢湖の湖畔でDJをしたのをきっかけに現地の人と繋がり、2023年、地域おこし協力隊(リトリート担当)に任命された。 温泉あがりにアンビエントを流すサウンドバスやフィールドレコーディング体験、音浴とヨガを掛け合わせた企画を立てるなど、仙北市の人びとと深く関わりつつある。

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Text(Answer):starRo(Shinya Mizoguchi)
Edit:Yusuke Osumi(WATARIGARASU)
Top Image:AI