「レコードは音質がいい」「レコードの音には温かみがある」とはよく耳にしますが、いまの令和の時代において発売されたレコード、その音質はいかに?ここではクラシックからジャズ、フュージョン、ロックやJ-POPなど、ジャンルや年代を超えて日々さまざまな音楽と向き合うオーディオ評論家の小原由夫さんが最近手に入れたレコードの中から特に<音がいいにもほどがある!>と感じた一枚をご紹介いただきます。
いま注目のジャパンジャズ
前回採り上げた大西順子に引き続き、今回も「ジャパンジャズ」からのピックアップだ。というのも、本邦ジャズ界はいま、大御所からベテラン、中堅、若手に至るまで、かつてないほど活気に溢れていると思うのだ。そうした中から今回採り上げるのは、芸大出身の俊英ドラマー、石若駿が結成したトリオ「TEINE」のファーストアルバムだ。このトリオはギター、ベース、ドラムという編成で、石若が一人一人に声をかけて実現したという。
リーダーの石若駿は、ジャズを基盤にジャンルを横断するプロジェクトAnswer to Rememberや、実験的な4人組バンドSMTKを率いる一方、椎名林檎、米津玄師、星野源らのレコーディングやライブに多数参加。東京藝術大学の同級生である常田大希とはKing Gnuの前身バンドで初代ドラマーを務め、現在もMILLENNIUM PARADEに参加している。
ベースのカノア・メンデンホール(Kanoa Mendenhall)は、ジャズミュージシャンの父親とピアノ教師の母親のもと日本で生まれ、プロとしてのキャリアをアメリカでスタートさせたのが13歳という早熟ぶり。高校卒業後にコロンビア大学とジュリアード音楽院に進んで知識と技能を磨いた。一方のギターの市野元彦も、バークリー音大出身の才人で、これまで先鋭的なバンドをいくつも渡り歩いている。
そうしたスーパーエリートともいえる二人を迎え、石若はいつになく自由奔放にプレイしている。彼の繰り出すリズム/ビート、ひいては音楽そのものが、まるでアメーバのように伸縮を繰り返し、次にどう展開していくか想像がつかない面白さがあるのだ。それに呼応して対話していくようなギターとベースとのアンサンブルが実にスリリングである。
レコーディングは2023年5月25日、東京のNK Soundにて行われ、録音と編集は、ニラジ・カジャンチ(Neeraj Khajanchi)が担当した。プロデュースは本盤をリリースしたレーベルDays of Delightの主宰である平野暁臣。ちなみにアルバムタイトルの『TEINE』とは、石若の故郷である北海道札幌市にそびえる手稲山(ていねやま)に由来する。
A-1「Conversation and Confession」は、冒頭のシンバルの響きが何かが起こりそうな緊張感を孕んでいる。タムのロールからギターとベースが導かれ、弦楽器の持続音と打楽器のアタック/余韻、その掛け合いの妙味にグーッと引き込まれる。音色とトランジェントが抜群にいいのがわかる録音だ。
B-3「April Fools」のイントロからの深々とした余韻のドラムとベースの上を、自由に泳ぎ回るような鋭敏なギターのメロディーが圧巻。次第にテンポが速くなっていく中で、音の消え際の美しさは秀逸だ。
ECM在籍時代のパット・メセニー(Pat Metheny)や、少し前のビル・フリゼール(Bill Frisell)のような芳香も感じられるアンサンブルだが、石若のリズムの支配力が強力かつダイナミックなところが音楽的オリジンと見た。快音・快演盤である。
Words:Yoshio Obara