歌謡曲にはときどき、不思議なほど印象に残るモチーフがあります。食べ物、乗り物、風景、季節の風物詩——何気ない存在が、歌の中では恋や憧れ、記憶を彩る言葉として登場します。では、「アイスクリーム」が登場する歌謡曲には、どんな曲があるのでしょうか。歌詞に登場する夏の氷菓を手がかりに、昭和歌謡の名曲たちをアーカイヴァーの鈴木啓之さんとたどります。

夏の歌に登場するアイスクリーム。その代表曲は?

今年も暑い夏がやってくる。夏の風物詩といえば、海、山、プール、避暑地、花火、などなど…。そしてどのシーンにもマッチングする魔法の食べ物がある。それがアイスクリームだ。最近ではインスタ映えする嗜好のかき氷が人気の様だが、老若男女、おそらく嫌いな人はいないであろうアイスクリームの人気は相変わらずである。

それではアイスクリームのことが歌われた曲にはどんなものがあるのか? 最近のJ-POPだと坂道や48系をはじめとするアイドルの夏曲に頻繁に登場しているし、あいみょんにも西野カナにも歌詞にアイスクリームが織り込まれた作品がある。やはり女子が好む “カワイイ” もののアイコンのひとつとして認識されているからだろう。ところが遡って昭和の歌謡曲となるとそれほど多くはなさそう。殊にヒット曲となると人々の意識はあまりにも大きな存在のあの1曲に集中するのではないか。そう、榊原郁恵「夏のお嬢さん」だ。

榊原郁恵「夏のお嬢さん」──軽快な掛け合いが特徴の定番曲

これ以上ないくらい快活な夏のアイドルソングがヒットしたのは1978年の夏。デビュー2年目だった彼女の7枚目のシングルにあたる。当時は夏にスターによる水泳大会の特番があり、アイドル達は皆水着姿でプールサイドで歌っていた。今では絶対にない演出だろう。そのホットポイントとなったのが大磯ロングビーチ。好評を得て冬場には室内プールで寒中水泳大会まで催されていたのだ。健康美がセールスポイントだった郁恵ちゃんはその筆頭で、石野真子や大場久美子らと共に70年代後半のアイドルシーンを支えていた。

「第1回ホリプロタレントスカウトキャラバン」で優勝して芸能界入りした榊原郁恵は、1977年元日に「私の先生」でデビューした。キャッチフレーズは ”1億円のシンデレラ”。4枚目のシングル「アル・パシーノ+アラン・ドロン<あなた」や5枚目の「いとしのロビン・フッドさま」などをヒットさせて徐々に人気を伸ばしていた中、この「夏のお嬢さん」が決定打となり、彼女の代表作となる。

前作「めざめのカーニバル」を作詞・作曲した佐々木勉が続けて作曲。佐々木は「いつまでもいつまでも」「星に祈りを」「別れても好きな人」などのヒットを生んだ作曲家である。そして作詞の笠間ジュンは淳子夫人のペンネーム。この夫婦コンビでは、次作の「Do it BANG BANG」や翌年の「ラブジャックサマー」も手がけている。

北村優子「ハロー・サンシャイン」──弾ける真夏の恋のひとコマ

ほかに70年代アイドルでは、バラエティー番組『ぎんざNOW!』でアシスタントを務めたり、学園ドラマ『ゆうひが丘の総理大臣』の生徒役で密かに人気を集めていた北村優子「ハロー・サンシャイン」の歌詞にもアイスクリームが登場する。1976年7月リリース。松本隆の作詞、穂口雄右の作曲・編曲による、彼女の2枚目のシングルだった。タイトルからは明るさ全開の曲調を想わせるが、実際にはちょっと愁いを帯びたミディアムテンポの夏うたである。

岩崎宏美「涙のペア・ルック」──日常の風景に残る恋の名残を描写

1975年に発表された岩崎宏美のセカンドアルバム『あおぞら』に収録されたせつない失恋ソング「涙のペア・ルック」に出てくるのはソフトクリーム。阿久悠による詞に、筒美京平の洗練されたメロディー、デビュー間もない頃とは思えないような落ちついた歌いっぷりで完成度の高いナンバー。

ともすればアイスクリームよりも頻度が多そうに感じるソフトクリームだが意外にも歌への使用例は少ない様で、ほかにはちょっと見あたらない中で貴重な1曲に数えられる。作詞と作曲は阿久悠と筒美京平の強力なコンビによるもの。ちなみにアメリカ発祥のサーティワンアイスクリームが日本のフランチャイズ1号店を麻布に開店したのはこの前年、1974年のことだった。

おニャン子クラブ「新・会員番号の唄」──アイスクリームに見る80年代アイドル像

では80年代はどうだったろうか。これまた意外と少ないのだが、それなりに知られた作品で、おニャン子クラブ「新・会員番号の唄」にアイスクリームが歌われていた。彼女らを輩出したバラエティー番組『夕やけニャンニャン』でもよく歌われていたメンバーの自己紹介ソング「会員番号の唄」が好評で作られた続篇である。

1986年9月にリリースされたメンバーの吉沢秋絵のシングル「鏡の中の私」のカップリングに収録され、尺の長さから通常の45回転ではなく、LPと同じ33回転なのが話題となったレコード。食いしん坊と称する会員番号34番の弓岡真美が大好きな食べ物として紹介するのがアイスクリームだった。

「会員番号の唄」と同じく秋元康の作詞かと思いきや、この続篇の作詞は番組の構成作家を務めていた遠藤察男、作曲は見岳章が手がけている。バブル前夜、1985年にオープンした西麻布交差点のアイスクリームショップ、ホブソンズが人気を博していた頃。

松任谷由実「オールマイティー」──シャーベットに重ねた恋の儚さ

80年代であれば、それこそユーミンや松田聖子の曲にアイスクリームは登場していなかったのかと思って調べてみたら、やはりありました。

いずれもストレートなアイスクリームではなく、 “シャーベット” という形なのが洒落ている。松任谷由実は1983年のアルバム『REINCARNATION』の収録曲「オールマイティー」。”愛の輪廻転生” をテーマに、同名の全国ツアーも開催されたアルバム。

単純にシャーベットを食べるという内容ではなく、もしも恋がシャーベットの様だったら逢えない時は凍らせておけるのに、といった詞の表現はさすがユーミンだ。なので夏曲ではなく1983年2月リリースの冬のアルバムの1曲ではあるが、「オールマイティー」のタイトルに免じてご容赦いただきたい。

松田聖子「ピーチ・シャーベット」──溶ける氷菓と夏の駆け引き

松田聖子は1983年6月リリースの傑作アルバム『ユートピア』の1曲目を飾る「ピーチ・シャーベット」。ストレートにタイトルにもなっているこちらは紛うことなきアイドルのサマーソング。 作詞・松本隆、作曲・杉真理、編曲・瀬尾一三の布陣。杉真理が松田聖子に提供した楽曲の中でも筆頭に挙げられる瑞々しい恋愛ソングではないだろうか。

氷菓が溶ける様子に恋愛の時間が溶けてゆくことを絡ませた絶妙な表現は作詞家・松本隆の真骨頂である。この曲でユートピアに導入されて、「マイアミ午前5時」「セイシェルの夕陽」と名曲が連なり、シングル曲も「秘密の花園」と「天国のキッス」が収められている。

氷菓が溶ける様子に恋愛の時間が溶けてゆくことを絡ませた絶妙な表現は作詞家・松本隆の真骨頂である。この曲でユートピアに導入されて、「マイアミ午前5時」「セイシェルの夕陽」と名曲が連なり、シングル曲も「秘密の花園」と「天国のキッス」が収められている。

思えば1983年の夏はこのアルバムとサザンオールスターズの『綺麗』ばかり聴いていた。ほかにも松本伊代の1982年のアルバム曲「プールサイドで待つわ」、小泉今日子の1987年のアルバム曲「今年最後のシャーベット」でもシャーベットが歌われている。80年代アイドルの曲にはアイスクリームよりもシャーベットの方が相性が良かった様だ。

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鈴木啓之

アーカイヴァー。テレビ番組制作会社勤務、中古レコード店経営を経て、ライター及びプロデュース業。昭和の音楽、テレビ、映画を主に、雑誌への寄稿、CDやDVDの企画・監修を手がける。著書に『東京レコード散歩』『昭和歌謡レコード大全』『王様のレコード』ほか共著多数。FMおだわら『ラジオ歌謡選抜』、MUSIC BIRD『ゴールデン歌謡アーカイヴ』、YouTube『ミュージックガーデンチャンネル』に出演中。

Words:Hiroyuki Suzuki

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